前田紀貞の建築家ブログ

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zoom RSS 新作:記憶を光に変えた(アルゴリズム)建築

<<   作成日時 : 2010/01/10 23:48   >>

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米国コロンビア大学の建築塾設計集団Proxy(長谷川徹+Mark collins)http://proxyarch.com/
との共同設計で、アルゴリズムプロセスによる新しい住宅(家):「I remember you」が完成しました。(担当:白石隆治)

■Flickr画像
http://www.flickr.com/photos/nmaedaatelier/sets/72157622477231441/detail/



「I remember you」は、以下、2種類のアルゴリズムによって導かれました。

=01.【量のアルゴリズム】

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「周辺を高いビルに囲われ採光が困難な条件下で、どのようして最大限の光を住宅(家)に確保できるか」という「最も明るい室空間(最適解)」を検証する為のアルゴリズム

=02.【質のアルゴリズム】
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クライアントの忘れ得ぬものたちへの“記憶”を“光”に翻訳する為のアルゴリズム




最初の01.【量のアルゴリズム】についての詳細は、以前のブログにて詳細に説明しました。
簡単に復習すれば、この敷地に住空間を想定した時、「内部空間が最も明るくなる為のシミュレーション(最適解)」を検証する、というものです。

具体的には、“光が降り注ぐ状況”を“光の玉が落下してくること”に置きかえ、
=その光の玉入れ競争の数を最大限に確保することのできる「外観の形態」
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=それによって結果的に出来あがってきた「内部空間」
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という手順でありました。
Proxy コンセプト動画:http://vimeo.com/769759

こうして、「I remember you」の「外観」と「内部空間」は、アルゴリズミックなプロセスによって自動決定されてくることとなりました。
より詳細は、以前のブログ参照ください。
■アルゴリズム建築と作家性
http://norisada.at.webry.info/200803/article_1.html
※プログラミング :Proxy(建築家/長谷川徹+Mark collins) 
 プログラムソフト:オリジナルiso-contourプログラム



ここまでは、建築内部に入り込む「光の量」の問題です。
そこで、次に考えられたのが「それはどんな質の光であるべきだろう?」ということでした。それが02.【質のアルゴリズム】ということになります。




今回は、
02.【質のアルゴリズム】
つまり
「クライアントの記憶を光に翻訳するためのアルゴリズム」
について少しばかり説明します。

つまり、“記憶”といった個人差ある不定形なものを、どうやってアルゴリズミックなプロセスを経て“光という物理現象”に変換したのか?という問題です。


まず知っておいていただきたいことは、
「I remember you」が扱った“記憶”とは、クライアントがとても大切に、そして愛おしく、忘れ得ぬものたちの
A.【写真】

B.【録音音声】
から引用されました。
A.【写真】は視覚的、B.【録音音声】は聴覚的なものとして。


これら(写真と音声)が持っている「固有性」を、アルゴリズミックな手順で抽出してみることで、最終的にはそれらの“記憶”(写真と音声)を、室内に設置されるアルミ有孔板のパターン(光の質)に変えてゆくことが考えられました。
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そうすることで、クライアントがいつも、天から降り注ぐ「忘れ得ぬものたちの光」の中で呼吸し、その「固有の光」(ここだけにしかない光)に満たされ生きていく、そういうことを希望したのです。
無論、空間とは“光があることで初めて現象してくるもの”ですから、「I remember you」の空間そのものが“忘れ得ぬものたちの記憶”によって出来上がっている、と言ってしまっても何も間違いではありません。
「I remember you」の空間の質とは、“記憶”によって初めてその姿を現わしてくれる、そんなものなのです。


では、“記憶”が封じ込められた【写真】が、どのような方法でアルゴリズミックに扱われたのか、について。
【写真】を認識する際、コンピューター上では、HSB(色相・彩度・明度)が頻繁に使用されます。これは、RGB(赤・緑・青)より人間の実際の色覚に合っていて、より実用的な画像処理が可能だと言われています。
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ご存知の通り、上の色相のバーを(–180度から+180度まで)動かすと以下のようになります。
※真ん中が「オリジナル写真」です。
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彩度のバー(–100%から+100%)の場合は以下
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明度のバー(–100%から+100%)の場合は、以下となります。
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結果、今回使用したアルゴリズムは、【写真】にプリントされたある特定の数値域(日常の視覚で捉えられていた域)のみを抽出し、その分布状況をアルミ有孔板の孔の“大きさ”と“配置”に変換する、という方向によって C言語が記述されました。
わかりやすく言えば、「かつて見慣れていた風景で目に入りやすかった数値領域(反射した光が目に入ってきていた部分)を抽出するアルゴリズム」を書いた、ということになります。
こうして、「オリジナル写真」が持っていた「固有性」という名の“記憶”は、アルミ有孔板の“大きさ”と“配置”に姿を変えてゆきます。
無論、こうしてできてきたアルミ板の孔を通して、天からの光が住宅(家)の内部へ入ってくることは言うまでもありません。「I remember you」内部空間の質は、その住宅(家)の“記憶”の「固有性」が決定してくれた孔から入ってきた光によって決定されているのです。
これが、“記憶”を“光”に翻訳する際のおおまかな方法です。


具体的には、忘れ得ぬもたちの2枚の【写真】は、下のようにそれぞれに異なった「固有性」を持つ、有孔板の孔の“大きさ”と“配列”に翻訳されました。
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左と右は、それぞれに異なった「オリジナル写真」が元になっていますが、それが有孔板に姿を変えられた時、やはり異なったパターン形状を生成しています。
プログラミング  :石橋正紀(建築設計事務所:前田紀貞アトリエ一級建築士事務所) 
プログラムソフト     :Processing




同様に、
B.【録音音声】についても同様な扱いが成されました。
「録音された音声」を音圧分布の特性から引き出したアルゴリズムとして抽出し、やはりそれを有孔板の孔の“大きさ”と“配列”に変換してみます。
こうすると、A.【写真】とは、やはり異なったパターンが生成してくるのです。
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「I remember you」では、アルゴリズムという方法によって、できるだけ建築というものが「自動生成」してくる創作の地点を探ろうとしています。

もう少し言えばそれは、僕のようなたかだか50歳程度の駆け出しの、創造に拙く創作経験の浅い青二才というものが往々にして持ってしまいがちな“エゴイズム”や“慢心”、そうしたものの傲慢や偏りからできるだけ距離をおきつつ、逆にそれを「無我」「無私」という視点から逆手に取ってしまえるような手段なのであります。僕たちはアルゴリズムというものを、その底ではそんなふうに捉えたいと考えています。

またもうひとつ、今回のアルゴリズムで大切なことは、
「アルゴリズミックな数値処理のプロセスを通過したからこそはじめて、“記憶”という温かな情緒が現象としての空間に昇華されようとしている」
という事実です。


アルゴリズミックな建築を非人間的だと片付けてしまうことは誰にでもできます。また、そこでは、「建築家の個性はどうなるのか?」といった声も頻繁に聞かれます。
でも、そのように簡単に言えてしまう者たちの「個性」などというものは、実は、エゴイズムや独りよがりと紙一重であることを忘れてはいけません。
アルゴリズミックな建築の方法とは、未だ、産声を上げたばかりです。だからこそ僕は、そこに沢山の未来の建築設計への創造のヒントが眠っているものと考えるのです。


人がずっとそこに住まうことになる空間の現象、現われに想いを馳せるとき、“たかが50年程度の経験”などを拠り所にして、本当にすべてが自信満々に“計画的”に最終決定されてしまってよいものでしょうか。
僕には、いつもそうした疑問があります。

日本では、古来より久しく、「無私」や「無我」といった、泥にまみれた創作者・設計者のエゴ(“私”が計画し尽くそうとする目論見)を排除する術が考えられ続けてきました。書道の滲みや擦れ然り、茶道の一期一会然り、陶芸釜の予測不能性然り。
一言で言ってしまえばそれらはどれも、「“私”の気まぐれや好き嫌いによって事を決定し尽くしてやろう」という態度への警告でありました。或いは、創作者の「計画」に、どこか「非計画」の空き地を残しておくことでもあります。
この「非計画」、すなわち「(良い意味での)偶然性を見方に付けてやろう」とする態度のことを、古来より日本人は自然(じねん)と呼んでまいりました。設計しないということです。
それは、ちっぽけな“私”を超えた宇宙までもを射程に入れようとした創造へのまなざしともいえます。

自然(じねん)とは、「計画」(設計)をせねばならぬ“私”が、いつもその傍らに敢えて残しておこうとした余白だったのです。それらは、“私”を超えた自然の摂理であり、素材や道具が不可避的に生じさせてしまう偶然のことを言います。
私たちの先達たちは、如何にしてこの偶然性を必然性に変えてやろうか、という視点で創作に対してきました。
それは、以下の華道家たちの言葉をみれば容易に納得できることでしょう。

「それでは偶然でないものはどこにあるのだろう。実に、人生のあらゆる場面は、偶然以外に無いと思う。だから偶然というものを不純とか、不完全なものと考えてはいけない。すべては、偶然出会った材料をどこまで自分のものにしてゆくかという問題である」
(勅使河原宏)

「すべては出会いである。その偶然の出会いを必然にするのがいけばなである。花はまた同じものがめぐってこないということ。人間もふたたび同じ状態では花に逢えないということ。しかし、その無常のなかにどうしても結ばれなければならないものがある、というのがいけばなである」
(勅使河原蒼風)






建築に於けるアルゴリズムのひとつの意味とは、遙か“私”などの及ばぬ「他者」のルール(自然・偶然)に“私”を委ねてしまう術なのでもあります。それは、なにか万人に客観的な成果物を手に入れさせる為のものでなく、狭く稚拙で泥にまみれた“私”から逃れ出ようと模索する為の手助けなのでもあります。

かつて、書道家が筆に、華道家が偶然の出会いに、陶芸家がコントロールできぬ釜に、敢えて託した自然(じねん)。
そして今、エレクトロニクス(電脳)こそが、そういった古来からずっと我々の国にあった伝統を、とても扱いやすい方法で引き継いでくれようとしているに違いありません。


建築家 前田紀貞

【前田紀貞アトリエ一級建築士事務所 HP】



■YouTube動画(I remember you)

http://www.youtube.com/watch?v=b1puI5FuQug

■YouTube動画(I remember youプレゼンテーション)
http://www.youtube.com/watch?v=oM2Hpui1o0k
http://www.youtube.com/watch?v=cjx2KMiKKRc

■未来を担う建築家:Proxy(アルゴリズム建築)
http://norisada.at.webry.info/200901/article_1.html



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