前田紀貞の建築家ブログ

アクセスカウンタ

zoom RSS 新作:プラスチックの建築(CELLULOID JAM)

<<   作成日時 : 2009/08/10 09:49   >>

驚いた ブログ気持玉 53 / トラックバック 0 / コメント 0

画像















横浜市 妙蓮寺に新しい住宅:CELLULOID JAM(セルロイド・ジャム)が完成しました。
-担当:白石隆治
-flickr画像
http://bit.ly/1hufnZY

画像












これは、内装・外装仕上げがプラスチック(FRP)の建築です。
以下、詳細について御紹介します。


■敷地
画像















当初、幾つもの候補があった敷地探しの中でも、この場所ほど魅惑的なものはありませんでした。
初めてここに足を踏み入れたとき、定家の歌にある“秋の夕暮れ”のようにすべてが消え去ってしまいそうでありながら、それでいて乱歩小説に登場する“洋館”でも建っていそうな質感ある空気の濃度、そんな奇妙なアンバランスが妙に心地よかったことが思い出されます。
  
敷地は、
- 湿った土
- 記憶に朽ちたトマソン階段 (何十年も放置され放しの使われていなかった階段)
- 暗がりの擁壁
- 手入れされぬ無数の植物たち……


と、“長い間誰からも興味を示されることのなかったモノたち”で充満しておりましたが、逆にそのことが、この空き地をいかにも妖艶なものにしてくれていました。
画像


























ですから、当初 僕の中には
そんな敷地の情緒が、決して建築によって汚されるべきでない、なんとかその大地の艶を引き受けてやりたい、そして、もしここに建築を作らねばならないのであれば ここに立ち上がる建築と大地とをトロトロに溶かしてしまいたい、
そんな想いが強く沸き上がっていたのでした。

極限すれば、ここでできることとは「建築を建てる」のではなく「敷地を建てる」といった扱いに近かったといえます。最初のうちは、建築の構想より「敷地の声を聞くこと」ばかりが頭にありました。


■メビウスの帯(二面 → 一面)
さて、このCELLULOID JAMでは、
それを室内・室外問わず 任意のどの場所から指でなぞり始めても、そのなぞる指は建物のすべての表面(床 → 内壁 → 天井 → 外壁 → 屋根)を一度も途切れることなく撫でながら一周し、再び元の位置まで戻ってくることが可能です。
そういう幾何学からできています。

これは、下の写真の「メビウスの帯」(右写真)の幾何学に依っています。
画像







普通、左写真のように白黒の帯を、両端で貼り合わせ輪っかにすれば、【内側が黒 vs 外側が白】となりますから、普通のはちまきのように、【白 vs 黒】という「二面」を持つようになります。
ところが、右写真のように帯の両端を180度捻って、【白】と【黒】がくっつくように貼り合わせてみます。すると、【白】の面からツーっとなぞってゆく指は、いつの間にか【黒】の面をなぞっていることになり、更にもう少しなぞり続ければ、指は再び【白】に戻ってくることになります。こちらの帯では、【白】と【黒】は「一面」ということになっています。

これはいわば、【前】に向かって思い切り投げたボールが、しばらくすると自分の頭の【後】から勢いよく近づいてくる、といったようなイメージといえます。言葉を代えれば、【遠い】がいつかは【近い】になり、【白】はいつかは【黒】になり、【表】はそのうち【裏】になる、 ということになる訳です。
このような【白 vs 黒】という対極を解消する幾何学、これぞ「メビウスの帯」と呼ばれるものの本質です。


実際のプロジェクトを扱うには、上で示した帯の【白 vs 黒】という対を【内部 vs 外部】【建築 vs 自然】に置きかえて考えてみることになります。
ただし実際のCELLULOID JAMでは、上の「メビウスの帯」にもうひとつ操作を加え、「帯の先端が更に2つに枝分かれするようにハサミを入れ、その後それらを互いに貼り合わせる」という幾何学操作(下図)によってできあがっています。
画像





このコンセプト図では、左から右へ向かって、5個の幾何学が徐々に変形されている様がわかります。すなわち、一番右の形が「操作された最終形」となります。しかしながらこれは、「実際の建築の形」(下写真)とは少しばかり形が違うことに気付きます。「操作された最終形」をもっと太らせたり痩せさせたりして変形しなくては、「実際の建築の形」にはなりそうもありません。或いは、部分的に引き延ばされた箇所もあるようです。
画像











■位相幾何学
さて、ここで申し上げておかねばならないこと、
それは、この二つの形の間には、「位相幾何学による変形」が行われている、ということです。
ちなみに「位相幾何学」(トポロジー)とは、ある図形を延ばしたり縮めたりして変形しても、それはあくまで「同じ形」(同相)であると見なす幾何学のことです。つまりこの幾何学によれば、「○」も「□」も「△」、同じ形(同相)ということになります。
言葉を換えれば、「長さ」「形」「面積」という目に付き易く変わりやすい情報を敢えて捨ててしまい、「関係」という事象だけを保存しつつ「図形の本質」を見極めようという幾何学といえます。
「位相幾何学」の分かりやすい例として「地下鉄の路線図」があります。これは、実際の地理的な距離を敢えて捨ててしまって、路線どうしの接続という「関係」だけを拾い上げた結果、「乗り換え」には非常にわかりやすい関係図となります。その為には、こういった特殊な幾何学が必要となる訳です。
画像













この幾何学が建築の形態操作で採用された背景には、諸室の「形」とか「面積」という事象は、計画途中でいくらでも変形してしまうが、要となる【建築(内部) vs 庭(外部)】の「関係」だけは、当初の設計概念のまま保存されるべきである、という考えがあります。こうした操作のお陰で、移ろいやすい与条件がいくら変化しよとも、この帯(住宅)の中の【内部 vs 外部】の関係には、一切 手が加えられることがないのです。僕は、この幾何学は建築では、割と有功な手法だと思っています。
※2003年に竣工した「THE ROSE」も、位相幾何学的な操作に依っています。
http://bit.ly/1ksn97d


こうして当初の概念通り、【キッチンの床】から順次この建築の表面を連続的になぞっていく指は、キッチンの壁 → 浴室の天井 → バルコニーの壁 → 1階外壁 → 1階個室の天井 → 1階書斎の壁 → 中庭の壁……と切れ目なくなぞり続け、終いには最初にスタートした【キッチンの床】に再び戻ってきてしまうことになります。
画像













対極の間に“縫い目”を作らぬ幾何学の力添えによって、【建築】は【敷地】とひとつらなりになり、【内】と【外】も縫い目なく一枚布となってゆきます。
「外壁」も,「寝室」も,「植物」も,「屋根」も,「擁壁」も,「テラス」も,「トマソン階段」も,「書斎」も,「中庭」も,「浴室」も,「バルコニー」も……、
ここにあるもの一切は、溶液のように溶け合ってくれるよう配列されてゆきます。


■素材・構造
素材に関しては、建物の幾何学に一切の縫い目が無いこと、一枚布であること、こうしたシームレスな様を裏付けるように、建物表面すべて(内〜外)は、一切 継ぎ目のないプラスチック(FRP)で塗り込められ一体成形されることとなりました。
画像











加えて、FRPによる「表面一枚布」のお陰で、構造的には「モノコック構造」として働いてくれることとなりました。これによって、一点への集中荷重は分散され、局所的なひずみが軽減される「自然の摂理」に近いストラクチャー(卵の殻のような)として仕上がってくることとなりました。
画像








 




大地の上に、(両端切りの)メビウスの帯が、溶けたセルロイドか はたまたジャムのようにねっとりへばりつき、【建築 vs 自然】の境目を消し去ってゆく、そんな景色こそ正に、この敷地自身が望んでいたことだったのではないかと思うのであります。


画像


















前田紀貞






- CELLULOID JAM写真撮影:傍島利浩
- LINK:CELLULOID JAM History
http://bit.ly/NBdfFa
- 施主によるCELLULOID JAM 全プロセス(2年半)のブログ
http://bit.ly/OIxAJQ








月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 53
驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた 驚いた
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い 面白い 面白い 面白い 面白い 面白い
かわいい かわいい かわいい かわいい かわいい
ナイス ナイス ナイス ナイス
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
新作:プラスチックの建築(CELLULOID JAM) 前田紀貞の建築家ブログ/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる