![]() 横浜市 妙蓮寺に新しい住宅:CELLULOID JAM(セルロイド・ジャム)が完成しました。(担当:白石隆治) ![]() これは、内装・外装仕上げがプラスチック(FRP)の建築です。 ■敷地 ![]() 当初、幾つもの候補があった敷地探しの中でも、この場所ほど魅惑的なものはありませんでした。 初めてここに足を踏み入れたとき、定家の歌にある“秋の夕暮れ”のようにすべてが消え去ってしまいそうでありながら、それでいて乱歩小説に登場する“洋館”でも建っていそうな質感ある空気の濃度、そんな奇妙なアンバランスが妙に心地よかったことが思い出されます。 ここは、 ・湿った土 ・記憶に朽ちたトマソン階段 ※何十年も放置され放しの使われていなかった階段 ・暗がりの擁壁 ・手入れされぬ無数の植物たち・・・・・ ![]() と、長い間“誰からも興味を示されることのなかったモノたち”で充満しておりましたが、逆にそのことが、空き地をいかにも妖艶なものにしてくれていたのであります。 ですから、 そんな情緒が決して建築によって汚されるべきでない、 なんとかこの大地の艶を引き受けてやりたい、 ここに建築を作らねばならないのであれば 大地とトロトロに溶かしてしまいたい、 そんな想いが何より強くありました。 極限すれば、ここでできることとは「建築を建てる」のではなく「敷地を建てる」といった扱いに近かったといえます。 最初のうちは、建築の構想より「敷地の声を聞く」ことばかりが頭にありました。 ■メビウスの帯 さて、CELLULOID JAMの表面は、室内・室外問わず任意のどの場所から指でなぞり始めても、その指は建築のすべての表面(内〜外)を一度も途切れることなく一周し、再び元の位置まで戻ってくることが可能です。 これは、下の写真の「メビウスの帯」(右写真)のような幾何学です。 ![]() 普通、左写真のように白・裏の帯を、両端で貼り合わせ輪っかにすれば、“内側が黒・外側が白”となりますから、普通のはちまきのように、“白の面”と“黒の面”という「両面」を持つようになります。 ところが、右写真のように帯の両端を180度捻って、“白い面”と“黒い面”がくっつくように貼り合わせてみます。 すると、“白”の面からツーっとなぞってゆく指は、いつの間にか“黒”の面をなぞっていることになり、更にもう少しなぞり続ければ、指は再び“白”に戻ってくることになります。こちらの帯では、“白い面”と“黒い面”は「両面」ではなく、「同じ面」内にあることになります。 これはいわば、【前】に向かって思い切り投げたボールが、少し時間が経つと自分の頭の【後】から勢いよく近づいてくる、といったようなイメージであります。すなわちここでは、“遠い”の極は“近い”になり、“白”の極は“黒”になり、“表”の極は“裏” となります。 こうした「白と黒」という対極を解消する幾何学のことが「メビウスの帯」と呼ばれます。 CELLULOID JAMを理解するには、上で示した帯の「白と黒」という対を、「内部と外部」「建築と自然」に置きかえて考えてみればよいのです。 実際のCELLULOID JAMは、「このメビウスの帯の先端が更に2つに枝分かれするようにハサミを入れ、その後それらを互いに貼り合わせる」という、下の絵のようなルールによってできあがっています。 ![]() こうした帯の中に、「建築と敷地」・「内部と外部」という対極は用意周到に配置されてゆきます。 例えば、【キッチンの床】から指でなぞっていけばそれは、キッチンの壁〜浴室の天井〜バルコニーの壁〜1階外壁〜1階個室の天井〜1階書斎の壁〜中庭の壁、・・・・・・と続き、おしまいには最初になぞりはじめた【キッチンの床】に再び戻ってきてしまうことになります。 ![]() 対極の縫い目を作らぬ幾何学の力添えによって、「建築」(CELLULOID JAM)は「敷地」とひとつらなりになり、「内」と「外」も縫い目なく一枚布となってゆきます。 「外壁」も、「寝室」も、「植物」も、「屋根」も、「擁壁」も、「テラス」も、「トマソン階段」も、「書斎」も、「中庭」も、「浴室」も、「バルコニー」も、 ここにあるもの一切は、溶液のように溶け合ってくれるようになってきます。 ■素材 縫い目が無いこと、一枚布であること、シームレスであること、こうした「対極は似る」ことを裏付けるように、CELLULOID JAMのひとつらなりの表面すべて(内〜外)は、一切 継ぎ目のないプラスチック(FRP)で塗り込めることによって一体成形されています。 ![]() これは構造的にも「モノコック構造」として働くことで、荷重を分散し局所的なひずみを軽減する自然の摂理に近いストラクチャー(卵の殻のような)となりました。 ![]() 大地の上に、(両端切りの)メビウスの帯が、溶けたセルロイドか、はたまたジャムのようにねっとりへばりつき、建築と自然(敷地)の境目を消し去ってゆく、そんな景色こそ正に、この敷地自身が望んでいたことだったのではないかと推測します。 ![]() さて、次回はCELLULOID JAMのプラスチック建築が、実際にどのようにして施工されてきたのか、という工事のプロセスについてお話します。 CELLULOID JAM写真撮影:傍島利浩 LINK:CELLULOID JAM History http://www5a.biglobe.ne.jp/~norisada/CELLULOID%20JAM/CELLULOIDJAM-TOP.html 施主:坂野公一氏によるCELLULOID JAM 全プロセス(2年半)のブログ http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=13189125&comm_id=1609227&page=all 前田紀貞 |
| << 前記事(2009/06/15) | ブログのトップへ | 後記事(2009/09/17) >> |